我々は、免疫学とヒト遺伝学の手法を用いて、免疫システムの恒常性維持とその破綻機序を分子レベルで明らかにすることを目指しています。主として下記テーマについての研究を実施しています
(1) Notchシグナルによる免疫調節
細胞分化制御因子として知られるNotch分子が免疫細胞をどのように制御しているかについて、個体レベルでの免疫応答あるいは転写調節の観点から明らかにしたいと考えています。我々はCD4陽性Tリンパ球の機能分化におけるNotchの役割を世界に先駆けて明らかにし(Immunity 2003)、CD8陽性Tリンパ球、NK細胞、マクロファージなどの機能・分化にもNotchシグナルが重要な役割を持つことを解明しています(Nat Immunol 2008, Proc Natl Sci Acad USA 2012, 2014)。また、記憶CD4陽性Tリンパ球が長期間生存するためにはNotch1およびNotch2からの刺激が必要で、NotchシグナルはGlut1の発現調節を介して糖の取り込みを促進させていることを明らかにしました(Nat Med 2015)。腸管上皮間リンパ球の生存にNotchシグナルが関与すること見出しました(PLoS Biol 2019)。
(2) ヒト免疫・炎症性疾患の原因遺伝子同定研究
ヒト遺伝学と免疫学の手法を用いて、ヒト自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の原因遺伝子の同定を目指しています。
(a) SLEの原因遺伝子としてDNASE1を同定し自己の核酸が自己免疫病の引き金になることをヒトではじめて証明しました(Nat Genet 2001)。
(b) 40年以上前に日本で報告されていた、発熱、脂肪萎縮、結節性紅斑を特徴とする自己炎症性症候群の原因遺伝子としてPSMB8を同定しました(J Clin Invest 2011)。PSMB8は免疫プロテアソームの構成分子であり、この研究によって免疫プロテアソームの機能異常がヒト疾患の発症に深く関与することが示唆されました。
(c) 自己炎症性疾患である家族性寒冷蕁麻疹の原因遺伝子として、バクテリアのセンサーとして知られていたNLRC4の変異を同定しました(J Exp Med 2014)。
(d) 肺線維症の原因遺伝子としてSFTPA1を同定しII型肺胞上皮細胞のnecroptosis感受性の亢進が病態と関連することを解明しました(J Exp Med 2019)。
以上のようなヒト疾患の原因遺伝子の同定研究から、ヒト免疫システムを理解することと、これまで知られていない免疫調節機構を解明することを目指しています。
(3) 記憶Tリンパ球の分化・維持機構
細胞内の代謝とepigeneticsな制御がどのように、記憶Tリンパ球の数を調節しているかについて明らかにすることを目指しています (Nat Med 2015)。
(4) 微生物に対する宿主感染免疫応答
寄生虫と細菌による免疫応答をどのようにTリンパ球が制御しているかについて明らかにすることを目指しています。特に、宿主の免疫回避機構(Nat Med 2004)や腸管免疫応答(Nat Commun 2013)に焦点を当てた研究を実施しています。
教室に参加あるいは関心のある方(学部学生、大学院、ポスドク)は、下記アドレスへ連絡してください。
安友康二