各論文についての背景と周辺状況も含めて残そうと思い立ち書き留める。随時、加筆する予定。
Suzuki Y, Miyazaki T, Muto H, Kubara K, Mukai Y, Watari R, Sato S, Kondo K, Tsukumo SI, Yasutomo K, Ito M, Tsukahara K. Design and lyophilization of lipid nanoparticles for mRNA vaccine and its robust immune response in mice and nonhuman primates. Mol Ther Nucleic Acids 30:226-40 (2022)
2019年末から発生したSARS-CoV-2感染に対する研究の一つ。中和活性の検証を担当した。こういう研究が次のパンデミックに役立てばいいと思う。
Kajisa T, Yano T, Koresawa H, Otsuka K, Sakane A, Sasaki T, Yasutomo K, Yasui T. Highly sensitive detection of nucleocapsid protein from SARS-CoV-2 using a near-infrared surface plasmon resonance sensing system. Optics Continuum 1:2336-2346 (2022)
2019年末から発生したSARS-CoV-2感染をどのように検知できるかという仕事が世界中で行われた。医光融合という観点での研究を実施した成果の一つ。
Tsukumo SI, Subramani PG, Seija N, Tabata M, Maekawa Y, Mori Y, Ishifune C, Itoh Y, Ota M, Fujio K, Di Noia JM, Yasutomo K. AFF3, a susceptibility factor for autoimmune diseases, is a molecular facilitator of immunoglobulin class switch recombination. Sci Adv 8(34):eabq0008 (2022)
自己免疫疾患あるいは免疫疾患には数多くの疾患感受性遺伝子が知られているものの、それぞれの分子が免疫系の制御にどのような役割を持つかが分かっていない場合もある。また、疾患発症にどのように、どの程度寄与するかということも理解が進んでいない場合がほとんどである。この研究では、数ある候補遺伝子から重要な役割を持つと想定される分子としてAFF3をいくつかのクライテリアを設定して抽出し、その機能解析を行った。解析の結果、AFF3はIgGのクラススイッチに関係することが明らかになった。ではどのようにしてクラススイッチを制御するのか、という課題に関しては相当の時間を要したが、最終的にはDNさんのグループとの共同研究によってその一部のメカニズムを明らかにした。ただし、まだ根っこのメカニズムにまではたどり着けていない。
Kondo H, Kageyama T, Tanaka S, Otsuka K, Tsukumo SI, Mashimo Y, Onouchi Y, Nakajima H, Yasutomo K. Markers of memory CD8 T cells depicting the effect of the BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine in Japan. Front Immunol 13:836923 (2022)
COVID-19に対するワクチンがどのようにCD8T細胞に影響を与えているのか、その効果を示す指標は何かということについて検証した論文。N先生との共同研究であり貴重なサンプルを供与していただいたことで可能になった仕事である。現代社会で拡がったウイルスについて免疫系がどのように応答しているのかについてまだまだ知見が積み重なっている状況である。その中で、ワクチンについてもそのT細胞応答を比較的正確に見ることができたのではないだろうか。
Sasaki Y, Arimochi H, Otsuka K, Kondo H, Tsukumo SI, Yasutomo K. Blockade of the CXCR3/CXCL10 axis ameliorates inflammation caused by immunoproteasome dysfunction. JCI Insight 7:e152681 (2022)
PSMB8の遺伝子変異を同定して直ぐに同変異を持つマウスを作成したが、ヒトと同様の炎症病態は観察されずに時間が経過していた。イミキモド誘導性皮膚炎という人工的なモデルではあるものの、このマウスでは感受性が高いことが明らかになった。その人工的なモデルについて、それがどのような意味を持つのかという議論が数多くなされたが、その議論については平行線であることが多かった。いずれにしても、その後、各種の試みと連携体制を経た後に、時間はかかったがようやく論文として発表する。マウスができてから10年が経過しており、時間はかかったけれども大事な知見を発表できたという成果である。
Yano T, Kajisa T, Ono M, Miyasaka Y, Hasegawa Y, Saito A, Otsuka K, Sakane A, Sasaki T, Yasutomo K, Hamajima R, Kanai Y, Kobayashi T, Matsuura Y, Itonaga M, Yasui T. Utrasensitive detection of SARS-CoV-2 nucleocapsid protein using large gold nanoparticle-enhanced surface plasmon resonance. Sci Rep 12: 1060 (2022)
超高感度な検出系について今回は対象を新型コロナウイルスとしたが、もっと違う応用もあるであろう。毎月集まってdiscussionをしながら、医学系と光科学系の研究者で境界領域の内容を仕上げた結果であるが、光科学系の要素がほぼすべてである。工学系の論文はこのような時間単位で出されているということを知ることもできた。
Yasutomo K. Genetics and animal models of familial pulmonary fibrosis. Int Immunol 33(12): 653-657 (2021)
日本免疫学会の50周年を記念したspecial issueの依頼総説。どの内容にしようかと考え、一度まとめておきたいと思っていた遺伝性炎症性疾患とその実験アプローチという観点で、家族性肺線維症をその一例としてまとめた総説にした。書いてみると、予想以上に盛り込まなくてはならないことがあり、書きたいと思っていたことや、本当は入れなくてならないことの半分ぐらいしか書けなかったが、コンパクトにはまとまったのかもしれない。この号にふさわしいものになったかはどうかなというところもあるが、ただ、ある意味ではこのプロジェクトのまとめをするという点での良い機会となった。
Boonchan M, Arimochi H, Otsuka K, Kobayashi T, Uehara H, Jaroonwitchawan T, Sasaki Y, Tsukumo SI, Yasutomo K. Necroptosis protects against exacerbation of acute pancreatitis. Cell Death Dis 12:601 (2021)
細胞死関係のプロジェクトについての仕事。「ダイイングコード」の新学術領域に参加して細胞死についての歴史、多様性、生体応答、研究者層などについて知ることができた、その研究からの続きで、肺線維症の解析の時に作ったマウスを用いた研究。細胞死の関与についての仕事は蓄積していることから、どういう不明点が残っているかということについて調べた結果、これまでnecroptosisの関与についての情報が錯綜していた急性膵炎についてMLKL欠損マウスを用いて詳細を検証する。実験はなかなか難しくて、時間もかかる実験であったがBが大半の実験を行い結果を得る。修正のための実験には4ヶ月の時間がかかり、うまくできなかった実験もあったことからどうだろうかと思ったが、修正論文は投稿後すぐにアクセプトとなる。実質は、修正論文の受け取りの連絡から17分後にアクセプトの返事となった。
Minamikawa T, Koma T, Suzuki A, Mizuno T, Nagamatsu K, Arimochi H, Tsuchiya K, Matsuoka K, Yasui T, Yasutomo K, Nomaguchi M. Quantitative evaluation of SARS-CoV-2 inactivation using a deep ultraviolet light-emitting diode. Sci Rep 11:5070 (2021)
医学と光科学を融合させた医光融合研究部門が新しい研究施設であるpLEDに設置されてから約2年となる段階での研究発表。新型コロナウイルス感染症に対しての対処に誰もがおわれる中で、深紫外を使ったウイルスの不活化について検証した論文。大学、産業系の方、自治体、など多くの方が関わった仕事である。
Sasaki Y, Otsuka K, Arimochi H, Tsukumo SI, Yasutomo K. Distinct roles of IL-1β and IL-18 in NLRC4-induced autoinflammation. Front Immunol 11:591713 (2020)
NLRC4変異を最初に見出してからそのフォローアップ論文が各ラボから出ている状況で、2014年の次の論文となる。Tgマウスであることからその生理的な意味合いはという問いはあったとしても、分かったことは臓器病理の違いであり、その治療標的というところがポイントである。課題についての関連性はないが、MSについて正式決定した時とほぼ同時期であった。
Takezaki A, Tsukumo SI, Setoguchi Y, Ledford JG, Goto H, Hosomichi K, Uehara H, Nishioka Y, Yasutomo K. A homozygous SFTPA1 mutation drives necroptosis of type II alveolar epithelial cells in patients with idiopathic pulmonary fibrosis. J Exp Med 216: 2724-2735 (2019)
前回の論文に引き続き、この仕事もいつ頃から開始したのかと紐解いてみると、2013年頃から開始している。それから6年が経過したという仕事となる。A-CとDからの支援の成果である。機能解析とメカニズム解析には埋めなければならない課題が多かった。朝と夜に仕上げたと言っても過言ではない。肺という組織についてはあまりなじみがなかったが、不思議な制御が数多くある事を知る機会。論文は、Tへ全員で行った直後での正式採択であった。論文とは関係がないが、T滞在中の天候はよく、T-Kのセレクションは良であった。特発性肺線維症は、病態や治療法の両者で解決しなくてはならない重要疾患である。更なる解析が必要である。
Ishifune C, Tsukumo SI, Maekawa Y, Hozumi K, Chung DH, Motozono C, Yamasaki S, Nakano H, Yasutomo K. Regulation of membrane phospholipid asymmetry by Notch-mediated flippase expression controls the number of intraepithelial TCRαβ+CD8αα+ T cells. PLoS Biol 17(5):e3000262 (2019)
いつごろから開始したのかと過去のデータを紐解くと2012年頃からプロジェクトとしては開始しているようで、2019年の採択だから7年越しである。最初はY君が現象を発見して、それをIさんが解析を蓄積してまとまった。どういうメカニズムかであるかというところで時間がかかったが、Iさんがアレイの結果を丹念に調べたことと、D研究班に入ることでその意味合いを結びつけることができた。その間に、東京で細胞を回収してこちらに持ち帰って解析するということも何回か繰り返した。細胞の染色にもハードルがあった。Eに投稿してPにそのままトランスファーしてもらうというシステムがあるということを知り、使われている意味合いは異なるがオープンサイエンスという範疇だろうと思う。時間はかかったが、重要行事の前に採択されてよかったという論文であった。
Tsukumo SI, Yasutomo K. Regulation of CD8+ T cells and anti-tumor immunity by Notch signaling (Review). Front Immunol 9:101 (2018)
Bさんから久しぶりの連絡があり、総説執筆の依頼をうける。英文総説は長らく書いていなかった。総説は溢れていて、同じようなことを書いても仕方がないという思いもある。しかし、今回の依頼については狭い領域ではあるが、あまり書かれていない部分であると思ったので引き受ける。とはいっても、ほとんどをT君がまとめる。この雑誌はオープンアクセスであり引用数も多くなっている。論文あたりのダウンロード数や引用数などの情報がみえるのは最近では普通のことになっている。
Ikeda K, Kinoshita M, Kayama H, Nagamori S, Kongpracha P, Umemoto E, Okumura R, Kurakawa T, Murakami M, Mikami N, Shintani Y, Ueno S, Andou A, Ito M, Tsumura H, Yasutomo K, Ozono K, Takashima S, Sakaguchi S, Kanai Y, Takeda K. Slc3a2 mediates branched-chain amino-acid-dependent maintenance of regulatory T cells. Cell Rep 21:1824-1838 (2017)
Oを訪れたときに話をさせてもらう機会があった。それから相当のdataが追加されていた。CD98については、アミノ酸トランスポーターとしての役割以外にも、接着分子としても機能している。どちらも、機能としてはこの分子唯一という機能ではないのだが、リンパ球においては分子欠損のデータが示すように重要な役割を持っているようだ。多種類の細胞に発現していて、CD98完全欠損マウスは生まれてこないことから発生段階にも関わる。そういう分子は数多い、というところで次のステップである。
Saito Y, Respatika D, Komori S, Washio K, Nishimura T, Kotani T, Murata Y, Okazawa H, Ohnishi H, Kaneko Y, Yui K, Yasutomo K, Nishigori C, Nojima Y, Matozaki T. SIRPα+ dendritic cells regulate homeostasis of fibroblastic reticular cells via TNF receptor ligands in the adult spleen. Proc Natl Acad Sci USA114:E10151-E10160 (2017)
徳島に何回か足を運んでこられて実験をされた。その内容とは別に多くのデータが追加されていた論文である。2018年の現状では、シングルセル解析がどのラボでもできる時代になってきている。一昔前は、シングルセルをマウスにtransferしたり、あるいはPCRである特定の分子を検出したりということはできていたが、今は時代が異なる。この論文についても樹状細胞分化をみているわけであるが、シングルセル解析がより進歩すれば、更に解析と知見が進む。
Zaman TS, Arimochi H, Maruyama S, Ishifune C, Tsukumo SI, Kitamura A, Yasutomo K. Notch balances Th17 and induced regulatory T cell functions in dendritic cells by regulating Aldh1a2 expression. J Immunol 199:1989-1997 (2017)
樹状細胞でRbpjが欠損するマウスを長期間飼育していると自己抗体が検出されるということに当時医学部生であったM君が偶然気付いたことから始まった仕事である。個体によりばらつきがあることは後の検討でわかったのだが、自己免疫応答の感受性は高まっている様子。それ以外にも、M君が見つけたちょっと不思議な所見が脾臓にあったのだがそれは今回の論文には入れておらず、いつか検証できるだろうか。米国で活躍中のA君の推薦でラボに参加したTさんが最後にしっかりまとめを行った。論文としては、個体実験が主体であり、Notchの標的遺伝子は同定できたものの、全体の免疫応答における重要性については解決しなくてはならない点は数多い。JIのIn This Issueに取り上げられるというおまけ付きであった。
Niki M, Nakajima K, Ishikawa D, Nishida J, Ishifune C, Tsukumo SI, Shimada M, Nagahiro S, Mitamura Y, Yasutomo K. MicroRNA-449a deficiency promotes colon carcinogenesis. Sci Rep 7:10696 (2017)
Notchが制御する遺伝子を同定するプロジェクトの一環である。NK君がNotchにより発現制御されるmicroRNAを検索したところ、数あるなかからMicro-RNA449aのみが有意に発現変動することを見出し、NK君とNJ君がMicro-RNA449a欠損マウスを樹立した。自分たちだけの手でつくった遺伝子欠損マウスとしては、2018現在では、唯一のpublicationである。しかし、そこからは簡単ではなく、I君、N君がいろいろ試したが、少なくともNotchに依存するような免疫応答の変化を検出することはできなかった。相当の時間がかかってお蔵入りかとあきらめかけていたが、I君とN君のスクリーニング的解析によって、欠損マウスでは大腸がんの発生率が高いことがわかり、臨床サンプルでもそれを支持する結果が得られた。大学院生3名が関わった仕事でもあり、それをまとめたものである。臨床的意義について、より多くのヒトサンプルを持っているグループにより追加解析をしてほしい。それにしても、miR449aと腫瘍については結果が錯綜している。腫瘍の多様性なのか、それとも解釈の問題なのか、2018年の現状ではもう少し情報を集めなくてはわからない。
Yasutomo K. Notch Signaling: Immunity and Cancer. Springer (2017)
Notchについての免疫とがんに関する仕事をまとめた本を出版する機会をいただく。Pさんには事情があり書いてもらえなかったが、多くの先生に協力いただいて仕上げることができた。中間報告というところだろうか。
Okamura K, Kitamura A, Sasaki Y, Chung DH, Kagami S, Iwai K, Yasutomo K. Survival of mature T cells depends on signaling through HOIP. Sci Rep 6:36135 (2016)
プロジェクトの発端についてはさておき、Oさんが、HOIPがどのようにT細胞分化と機能に役割を持つかについて明らかにした論文である。OとKに足を運んですすめた仕事である。まだやり残したことがあるが、検証できる日が来るだろうか。HOIPについては同時期に、いくつかの関連変異疾患とか変異マウスが報告され、自己免疫と自己炎症そして免疫不全との関わりについて多くを考えるきっかけになった。HOIP経路に関する研究からは、はなれるが、その点についてはこれから解明しなくてはならない課題の一つである。
Furukawa T, Ishifune C, Tuskumo SI, Hozumi K, Maekawa Y, Matsui N, Kaji R, Yasutomo K. Transmission of survival signals through Delta-like 1 on activated CD4+ T cells. Sci Rep 6:33692 (2016)
ちょうど12年前の三島でのNotch研究会で聴いたcis-inhibitionによる制御がどうにもひっかかっていた。トポロジー、糖鎖付加、どうもしっくりこない。それから、M君がT細胞の過剰発現の実験系でその現象を捉えることはできていたが、そこまでであった。解析できる材料が揃ったところで、Notchリガンドによるcis-inhibitionは本当か、という問いに対して答えようとした仕事である。Mさんの推薦で参加したF君の解析により、Dll1をT細胞で欠損させたところ、結果は予想と正反対であったという論文である。つまり、この系ではcis-inhibitionは観察されていない。しかし、negativeな所見なので完全には否定できないともいえる。結果をどのように説明するのかということについて、メカニズム解析が不足しているが、ここまでの解析にはある程度満足したことから、論文としてまとめる。
Gamrekelashvili J, Giagnorio R, Jussofie J, Soehnlein O, Duchene J, Briseño CG, Ramasamy SK, Krishnasamy K, Limbourg A, Kapanadze T, Ishifune C, Hinkel R, Radtke F, Strobl LJ, Zimber-Strobl U, Napp LC, Bauersachs J, Haller H, Yasutomo K, Kupatt C, Murphy KM, Adams RH, Weber C, Limbourg FP. Regulation of monocyte cell fate by blood vessels mediated by Notch signaling. Nat Commun 7:12597 (2016)
自分たちが使っていたマウスを用いて単球系を解析してほしいという依頼があり、Iさんが解析する。ベルリンでの粘膜免疫の国際学会に参加したときに、IさんとともにG君とdiscussionするが急用ができたLさんとはそこでは会えず。関係ない話だが、ベルリンの壁をはじめてみたが、もう過去のことになっているという印象であった。そしてベルリンの人の少なさに少々驚いたが、これ位が適切なのかもしれないとも思った。最初に投稿した雑誌には結局は採択してもらえなかったようだが、その後は比較的すんなりと出版にこぎ着けたようにみえた。
Arimochi H, Sasaki Y, Kitamura A, Yasutomo K. Differentiation of preadipocytes and mature adipocytes requires PSMB8. Sci Rep 6: 26791 (2016)
免疫プロテアソーム機能が低下すると部分脂肪萎縮症が発症することを以前に見出したのだが、その分子機構について解析を行った仕事。Kさんの仕事から、脂肪前駆細胞の分化異常あるいは生存異常が観察できていたが、それをA君が詳細にメカニズム解析を行った仕事である。A君がSさんとともに脂肪細胞分化を丁寧に解析した。高脂肪食のモデルはこの仕事がはじめてであるが、その体重増加具合はすさまじいというのも印象的であった。ともかく、体重増加に差があるということが証明できたことはとてもよく、また脂肪組織が持っている生体制御系について多くを知ることができた。ただ、脂肪細胞のバイオロジーについてはそれ以上の関心を持つことは現段階ではできていない。
Maekawa Y, Ishifune C, Tsukumo SI, Hozumi K, Yagita H, Yasutomo K. Notch controls the survival of memory CD4+ T cells by regulating glucose uptake. Nat Med 21:55-61 (2015)
Notchと記憶T細胞との関係性を明らかにした論文である。そもそもその現象にM君が気付いたのは、Notch欠損マウスのT細胞のrecall応答が障害されているというところからである。それから、M君がT細胞の移入実験、感染実験、自己免疫モデルマウス実験などで検証して結論を得ることができた。メカニズムについては、ずいぶん時間がかかった。まず、マイクロアレイでは標的となるような経路を見出すことができなかった。しかし、そうこうしている間に、Notch欠損マウスの記憶T細胞はコントロールと比較して、それほど急に生存が落ちるということに気付いた。もし、activeなcell death経路がうごいているとすると、すぐにその差をみることができるはずである。そこで、代謝経路に着目した。ずいぶん昔に、旧友のK君が行っていた実験を思い出し、解析を行い、結論に到達することができた。
投稿後にもずいぶん時間がかかった。追加実験では、機器を借りて解析を行うことも試みた。理由は今でもわからないが、市販の抗体の検証をすることも要求された。免疫サマースクールの時に何度目かの返事が来て小豆島からM君に連絡をして、どうするかについて話をして、そしてeditorにすぐに連絡をした。その結果、すぐに採択の連絡が来たのはちょっと驚きであった。この仕事は、Bさんも同じことを目指していることを知り、最初は同時に投稿することを試みたのだが、最終的に自分たちの仕事だけが採択されるということとなったことは心苦しい。それにしても長かったが、最後にNews and Viewにも取り上げてもらったことはM君へのご褒美かもしれない。
Oh SJ, Ahn S, Jin YH, Ishifune C, Kim JH, Yasutomo K, and Chung DH. Notch 1 and Notch 2 synergistically regulate the differentiation and function of invariant NKT cells. J Leukoc Biol 98:781-789 (2015)
ソウル国立大学のC先生との共同研究である。C先生とは、米国NIH時代に知り合い、C先生が帰国するちょっと前の1999年に共同研究を始めたことがあった。その共同研究はうまくいかなかったが、互いに日本、韓国に帰りそれからソウルで2009年に再会することになった。それから、徳島に招聘したり、ソウルに呼んでもらったりして交流を行った。そして、年に一回の頻度で合同会議を行うことをはじめて、はじめての共同研究の成果である。2014年にOさんが徳島に来て、Iさんがサポートして、1週間程度でいくつか解析を行った。ポスドク時代に米国で行おうとしていた共同研究はうまくいかなかったが、この成果はその時の研究とも関係があり、成果を生み出すことができたということは、互いに感慨深いものがあるということを相互確認した。この仕事はここで終了ではあるのだが、論文だけではなくそこから派生して生み出された事柄はとても大きい。
Kurihara T, Arimochi H, Bhuyan ZA, Ishifune C, Tsumura H, Ito M, Ito Y, Kitamura A, Maekawa Y, Yasutomo K. CD98 heavy chain is a potent positive regulator of CD4+ T cell proliferation and interferon-γ production in vivo. PLoS One 10:e0139692 (2015)
MD/PhDコースの学生であったK君の仕事で、CD98hcとT細胞応答に関する内容である。Lさんがつくった抗体から始まった仕事であり、遺伝子欠損マウスを用いてT細胞との増殖について詳細に検討した。T先生からマウスを供与していただいて実験をすすめることができた。長いストーリーがある実験であり、個体実験の結果が、なかなか定まらなかったが、最後はA君のサポートを借りてまとめた仕事である。
Kitamura A, Sasaki Y, Abe T, Kano H, Yasutomo K. An inherited mutation in NLRC4 causes autoinflammation in human and mice. J Exp Med 211:2385-2396 (2014)
NLRC4変異による自己炎症性疾患を初めて報告した仕事である。2009年のJI学会にてKH先生のポスター発表をKさんが見つけたところからはじまった。コンピューターをなくしそうになったのはその時だった。スーツケースを見張らなくてはならなかった。それからKH先生に協力していただいて、原因遺伝子はKさんがすぐに発見した。その変異解析についてはKにも足を運んだが、凝集が顕著でありそれはうまくいかないことがわかった。変異マウスを作って、激しい炎症病態を観察できたことからその変異は病的変異であることが確信できた。Kさんが、しっぽが曲がっていることに気づいたのが最初であり、それからTさんがよく観察してくれた。FACSでは染色のセットをこの解析の時につくり、何度も夜中まで解析した。また、寒冷刺激によって炎症が増悪する像が認められた時には驚き、Kさんが急いで写真を撮像して、その最初の写真をいつも使い回ししている。2014年の4月には米国に行き、情報を収集する必要があり、それはうまく機能しなかったが、まったく問題なかった。JEMはすぐに採択してくれた。この仕事を通じて、旧友のRとも会う機会があった。
この仕事に携わったKさん、Tさんいずれもこの研究から離れるが、C研究費に採択され成果を生み出してくれた貢献は大きく、自己炎症疾患の分野で将来的にも残る仕事になったと思う。ただ、まだ終わっているわけでは決してないことは明記しておきたい。新しい方向性へと進めていくことが必要である。
Ishifune C, Maruyama S, Sasaki Y, Yagita H, Hozumi K, Tomita T, Kishihara K, Yasutomo K. Differentiation of CD11c+CX3CR1+ cells in the small intestine requires Notch signaling. Proc Natl Acad Sci USA 111:5986-5991 (2014)
Iさんが論文に掲載されていた細胞分類の結果をもとにして、始めた仕事である。Iさんが大阪に足を運んでU先生に色々教えていただいた。それから、CD4やそれ以外のマーカーを変えながら、Iさんが一番良い分離の仕方を使ってその差を明確にすることができた。腸管細胞を分離することと、組織での発現との違いがあるのかなど考えなくてはならないことが多い実験であった。こういう研究に特に必要と思って、発表後ではあるが顕微鏡を購入した。内容としては、Notchが欠損した際に、分化が偏向することまでは同定できたがその偏向がどのような意味があるのか、あるいは偏向しないことがどのような意義があるのかということについてはまだ解明できていはいない。論文についてはもっとすんなりと掲載されるかと思っていたのだが、予想以上に難航してしまって、その理由は、その意義という所にある。それと校正の時にも、Iさんが難航しながら校正して、飛騨の研究会から帰るときに電車内でゆられながら校正を見直した。論文の構成については、共通のプラットフォームがあればいいのにといつも思う。
Bhuyan ZA, Arimochi H, Nishida J, Kataoka K, Kurihara T, Ishifune C, Tsumura H, Ito M, Ito Y, Kitamura A, Yasutomo K. CD98hc regulates the development of experimental colitis by controlling effector and regulatory CD4+ T cells. Biochem Biophys Res Commun.444:628-33 (2014)
ZさんがCD98hcの阻害抗体を用いて腸炎抑制効果を検討した研究である。ZさんはAさんの紹介で参加した。個体実験で難しい部分もあったのだが、最後のまとめをしっかりと行ってくれた。
Nakajima K, Maekawa Y, Kataoka K, Ishifune C, Nishida J, Arimochi H, Kitamura A, Yoshimoto T, Tomita S, Nagahiro S, Yasutomo K. The ARNT-STAT3 axis regulates the differentiation of intestinal intraepithelial TCRαβ+CD8αα+cells. Nature Communications 4:2112 (2013)
M君が集めてきた情報とその結果をもとにN君がはじめた仕事である。N君が几帳面に解析を行った。関連がある論文がちらほらでていた頃だったので、どうだろうかとは思ったが、採択はすんなりといった。腸管の環境と細胞分化との相互作用をみた結果であり、まだまだ未解明の部分はあるとしても、少なくともこの系では分子機構を明らかにすることができた。最後はN君が緻密に解析を行った結果である。この雑誌は創刊してまもないころであり、どういう位置づけかはっきりしなかった。当時はそうではなかったが、今は完全なオープンアクセスになっている。
Sawada A, Ohga S, Ishii E, Inoue M, Okada K, Inagaki J, Goto H, Suzuki N, Koike K, Atsuta Y, Suzuki R, Yabe H, Kawa K, Kato K, Yasutomo K. Feasibility of reduced-intensity conditioning followed by unrelated cord blood transplantation for primary hemophagocytic lymphohistiocytosis: a nationwide retrospective analysis in Japan. Int J Hematol 98:223-30 (2013)
厚労省の血球貪食症候群の研究班の成果の一つである。この研究班は、基礎と臨床が入り交じっていてなかなか困難な部分があり、最初は奈良で班会議を開いたりして、Kさんとともに貢献しようとした初期の仕事の関連である。奈良では、家系構造についてゲノム解析で気付いたこともあった。自分たちの成果については、まだ世に出ていない。
Lian G, Arimochi H, Kitamura A, Nishida J, Li S, Kishihara K, Maekawa Y, Yasutomo K. Manipulation of CD98 resolves type 1 diabetes in nonobese diabetic mice. J Immunol 188:2227-34 (2012)
L君が大学院生としてラボに参加して始めた仕事であった。Kさんとのコンビも機能して抗体の対応抗原を同定して、個体レベルの実験はA君とN君の力を借りてまとめてくれた仕事である。抗体あるいはsiRNAなどの手法を使うことで、CD98hcの機能を個体レベルで解明することができた。以降はCD98hcの欠損マウスを使うことになったが、CD98hcプロジェクトの最初の仕事である。
Iwahashi S, Maekawa Y, Nishida J, Ishifune C, Kitamura A, Arimochi H, Kataoko K, Chiba S, Shimada M, Yasutomo K. Notch2 regulates the development of marginal zone B cells through Fos. Biochem Biophys Res Commun 418:701-707 (2012)
Notchの標的遺伝子を同定するプロジェクトの一環である。Marginal zone B細胞におけるNotchの標的遺伝子の一つがFosであることが解明できた。I君のパワフルな実験の結果である。
Nemoto H, Kataoka K, Ishikawa H, Ikata K, Arimochi H, Iwasaki T, Ohnishi Y, Kuwahara T, Yasutomo K. Reduced diversity and imbalance of fecal microbiota in patients with ulcerative colitis. Dig Dis Sci 57:2955-64 (2012)
N君がKさんの指導をえながらまとめた仕事である。
Kuramoto T, Goto H, Mitsuhashi A, Tabata S, Ogawa H, Uehara H, Sijo A, Kakiuchi S, Maekawa, Yasutomo K, Hanibuchi M, Akiyama SI, Sone S, Nishioka Y. Dll4-Fc, an inhibitor of Dll4-Notch signaling, suppresses liver metastasis of small cell lung cancer cells through the downregulation of the NF-kappa-B activity. Mol Cancer Ther 11:2578-87 (2012)
その当時はNotchと血管新生が話題になっていた。K君が着目した点も同じである。ずいぶんと苦労したと話は聞いた。このころまでは、癌に対するプロジェクトもほそぼそと展開していたし、関心も高かった。
Ishifune C, Maekawa Y, Nishida J, Kitamura A, Tanigaki K, Yagita H, Yasutomo K. Notch signaling regulates the development of a novel type of Thy1-expressing dendritic cell in the thymus. Eur J Immunol 41:1309-20 (2011)
T細胞から離れてDCでのNotchの役割を検討した研究である。これはストローマ細胞上でDCを培養すると少し様子の変わったDCが分化することに気付いたことから始まった仕事である。ラボとしては過剰発現の系からloss of functionの系へと変換した時期であった。CD90が発現する意味については到達できなかったが、discussionを重ねて、Iさんが細胞の表現型を緻密にみて、最後はまとめることができた。Iさんは最後までがんばって発表した。細かい仕事のまとめかもしれないが、よくできた論文であると思っている。
細胞分化という事項についてこだわってきたが、この時期から細胞分化っていったい何、ということが不明確になり、学生時代から考えてきたことについて少々考え方を変えなくてはならないと思い出した時期でもあった。
Kitamura A, Maekawa Y, Uehara H, Izumi K, Kawachi I, Nishizawa M, Toyoshima Y, Takahashi H, Standley DM, Tanaka K, Hamazaki J, Murata S, Obara K, Toyoshima I, Yasutomo K. A mutation in the immunoproteasome subunit PSMB8 causes autoinflammation and lipodystrophy in humans. J Clin Invest 121:4150–4160 (2011)
PSMB8変異による新たな自己炎症性疾患を見出した論文である。学部学生時代あるいは病院勤務時代に、病気の原因を見つけたい、あるいは新しい疾患をみつけたいと思っていた。その二つをかなえられたのかもしれないと思った仕事である。激しい競争になって、最初論文をS誌に投稿したが、追加実験のさなかで遺伝子だけの仕事が発表され、S誌と交渉しながら2010年の年末にKさんががんばり大晦日に投稿するも、結局はS誌には採択されなかった。それから少し休まなくてはならなかったが、JCIではKさんが行ったメカニズム解析が決め手となって、すんなりと掲載され、JCIの懐の深さに感謝した。そういう意味でも、ASCIのメンバーにしてもらったことはとても感慨深い。ASCIについてはRとWに推薦をもらい、大御所のK先生にもサポートしていただいた。関係のない話だが、2016年のASCI meetingでのdinnerではW大学のY先生と隣になり、G先生のこととか、その息子さんの活躍のこととか、なぜか米国でのKawasaki病のことなど話をする機会があった。ASCIのような組織が日本でもあってもいいと思った。
遺伝子の発見に関してはKさんとともに驚きの連続であり、ゲノム解析はKさんの面目躍如であった。ラボとしてはゲノム解析研究にのめり込むことになったきっかけの仕事であり、小さいながらも医学の分野で重要な仕事ができたのかもしれないと思った仕事の一つである。備忘録的であるが、N先生、T先生のサンプルの保管について感銘をうけ、その感銘は今も忘れていない。サイエンスとは関係ないが、Aに行ったときにO先生の運転には衝撃を受けた。NMを機内に忘れたことは反省。T先生、M先生、H先生には年末・休みにも関わらず素早く協力していただいたことは感謝していて、それを見習いたいと思って、至らないができるかぎりそのようにしているつもりである。
自己炎症性疾患の中にプロテアソーム機能不全症という疾患概念が確立されたが、その次のステップは治療である。Kさんとはハワイの米国人類遺伝学会などで何度か話をしたが、治療というところまで手を広げるのはラボの規模としてできるのだろうかとずっと考えていた。しかし、そこを自分たちでチャレンジしようという2018年の現状である。最後までやり遂げること、それが重要なことなのである。
Sakata-Yanagimoto M, Sakai T, Miyake Y, Saito T, Maruyama H, Morishita Y, Nakagami-Yamaguchi E, Kumano K, Yagita H, Fukayama M, Ogawa S, Kurokawa M, Yasutomo K, Chiba S. Notch2 signaling is required for proper mast cell distribution and mucosal immunity in the intestine. Blood 117:128-34 (2011)
S-Yさんが徳島にもやってきて実験を行った力作の論文である。徳島で行った実験の時には、予定していた実験である細胞移入実験によりマウスが変調を引き起こすなど苦労した。そして実験の予定を延長して実験を繰り返した。その時は、徳島で記録的な大雨が降ったときでもあった。また、その後に、C先生、S-Yさんともに阿波踊り時に徳島に招聘したこともあった。
Alam MS, Maekawa Y, Kitamura A, Tanigaki K, Yoshimoto T, Kishihara K, Yasutomo K. Notch signaling drives IL-22 secretion in CD4+ T cells by stimulating the aryl hydrocarbon receptor. Proc Natl Acad Sci USA 107:5943-5948 (2010)
飛び込みで参加したA君の仕事である。NotchとIL-22の産生の関係について、直接の関係性があるのではなくAhrを介しているということを正確に示してくれた。最後のまとめについては、A君が帰国を少し遅らせてまとめた。つい最近、そのことについてYさんと話をする機会があった。A君、Bさん、Lさんのお茶会の話についても聞いて、そういえばそういうことがあったと思い出した。A君は海外で活躍している。
Kijima M, Yamaguchi T, Ishifune C, Maekawa Y, Koyanagi A, Yagita H, Chiba S, Kishihara K, Shimada M, Yasutomo K. Dendritic cell-mediated NK cell activation is controlled by Jagged2-Notch interaction. Proc Natl Acad Sci USA 105: 7010-7015 (2008)
Notchと免疫応答の実験を行う中で、特にT細胞に着目していたがKさんの参加によってNK細胞にも着目することを試みた。NK細胞とDCとの相互作用がありその経路の一部をNotchで説明できることを見出すことができた。レトロウイルスを使った過剰発現がires-GFPの発現と相関しないなどうまくいかないなどもあった。どのリガンドが大事かというところでずいぶんと時間を使って検証を重ねた。新たにチャレンジする実験系も多かったが、Kさんが丁寧にこなした。その時にはじめたRをS島で開催し、Kさんも参加したことをよく覚えている。KK君に助力してもらい投稿後に、2007年の東京で開催された免疫学会の時に雑誌から返事が来て、追加実験について会場のホテルロビーでKさんと話し込んだことをはっきりと覚えている。追加実験も無事に終わって採択にこぎ着けたのだが、最後まで一人の査読者からOKがでなかったようにみえたが、editorの判断で採択になったようだ。それから、KさんはNK細胞に関心を持ってその道に進みたいと考えるようになったと言っていた。2017年にKさんは永眠されたことは残念でならない。生誕と成育した地を訪れる機会があり、この緑いっぱいの豊かな自然が純な性格を育んだのだと思った。真摯で優れた研究者であった。
Tsukumo SI, Hirose K, Maekawa Y, Kishihara K, Yasutomo K. Lunatic Fringe controls T cell differentiation through modulating Notch signaling. J Immunol 177:8365-8371 (2006)
Notchの糖鎖付加とT細胞分化についてT君が検討した仕事である。現在もであるが、当時も糖鎖付加についての解析方法が限られていて、結局は糖鎖付加する遺伝子の発現とその過剰発現あるいは発現低下によってどのように細胞分化が変化するかということを検討した。三種類のFringeがあるのだがそのうちのLunatic fringeについて詳細に検討を加えた。CのGグループとの競合になり、こちらの論文は採択されずという結果になったが、T君のねばりにより出版にこぎつける。糖鎖付加についての解析技術について、いろいろと考えてかつ研究班にも入れてもらったりもしたが、結局の所はその技術については、少なくとも自分たちが知りたいと思っていることを知るには足りていないのが現状である。実は、T君がラボに参加してはじめた別のプロジェクトも競争に巻き込まれてしまい、T君と話をしてこちらはお蔵入りせざるを得なくなった。次こそはと思ったことを覚えていて、そして同じことが2018年の現状でも起こっているのかもしれないということは不思議なことである。結局は、同じことを考えている人は、時期は少しずれるのかもしれないが、どこかにいるということ。そこで競争することはあまり意味が無いなとは思うものの、現実的にはそうはいってられない。
Hisaeda H, Maekawa Y, Iwakawa D, Okada H, Himeno K, Kishihara K, Tsukumo SI, Yasutomo K. Escape of malaria parasites from host immunity requires CD4+CD25+ regulatory T-cells. Nat Med 10:29-30 (2004)
ラボ独立直後の2001年の7月にストックホルムでの国際免疫学会に参加していたとき、なぜかストックホルムでトムヤムクンをすすりながら、マラリアで認められる免疫系の変調をどう考えるかという話になり、H君にTregとの関係性を解析してみようと話したのが最初である。それから、H君が感染実験を行い、マウスマラリア原虫がTregを選択的に活性化していることが解った。マウスマラリア原虫に限らず、感染力などは徐々に変動していくことから、この結果を一般化することはこの時点ではできていなかった。NMからは何度も修正・追加実験を要求され、H君が追加実験を行い、逐一答えて、1年以上かかったうえに最終的にBrief reportなら掲載可であると言われて、渋々ながら承諾する。Tregを消せばT細胞応答が増強するから当然の結果ではないか、単純な発想、という声をちらほら聞いたが、単純な発想だとしても時間と経費を使って実験を行えるかどうかは別物、Tregを消せば免疫応答は増強するが原虫が選択的にTregを活性化するということがポイントである、ということを考えたり主張したということを鮮明に覚えている論文・仕事であった。プリントアウトするとぺらぺらの裏表一枚の紙なのであるが、貴重な仕事であると思っている。
この仕事をきっかけに、米国C大学のAM先生にお会いさせていただいた。徳島の居酒屋で、アフリカで発表してみるかと言われ、現地状況を聞いてそれはちょっと、と返事をすると、じゃあインドはと言われ、それならと承諾し、すぐに講演発表する機会をいただいた。K先生ともこれを機会に知り合いとなった。T君に一緒に行こうと誘い、毎食カレーという生活ながら、良い経験をさせてもらったと感謝している。今は、このテーマから離れてしまっていてこれからも行うことはないような気がするが、まだ関心は高い分野であり、本当はこの分野の仕事を行ってみたいという気持ちだけは大いにある。
Hayashi Y, Tsukumo SI, Shiota H, Kishihara K, Yasutomo K. Antigen specific T-cell repertoire modification of CD4+CD25+ regulatory T-cells. J Immunol 172:5240-5248 (2004)
Tregのレパトアを調べた実験である。結果はともかくとして、米国でG先生にプロジェクトとしてとても良いと言ってもらったことは今でも鮮明に覚えている。その当時としては、技術として行える限界ではなかったかと思うが、今ならばもっと良い方法はある、というのが現状での感想である。
Hayashi Y, Ishimaru N, Arakaki R, Tsukumo SI, Fukui H, Kishihara K, Shiota H, Yasutomo K#, Hayashi Y (# C. author). Effective treatment of Sjogren's syndrome mouse model by eye drop administration with anti-CD4 monoclonal antibody. Arthritis Rheum 50:2903-2910 (2004)
眼科のH君がラボに参加したので、抗体を点眼した場合の治療効果はどうなのだろうか、という単純な思いつきから行った実験である。H先生から良いモデルマウスを供与していただいて、予想外に高い治療効果を認めた。後から調べると抗体を点眼するという試みはこれが最初ではなかったのだが、今でもあまり普及していない様子である。もっと普及できるのではと現時点では思うが、当時はここでこのプロジェクトは終えた。ラボを立ち上げたばかりで、ビジョンが定まらず方向性を模索している状況であったのだ。
Maekawa Y, Tsukumo SI, Chiba S, Hirai H, Hayashi Y, Okada H, Kishihara K, Yasutomo K. Delta1-Notch3 interactions bias the functional differentiation of activated CD4+ T-cells. Immunity 19:549-59 (2003).
米国から帰ってからの最初の成果である。こちらが心配になるほど、M君が昼夜および休日を問わず解析して完成した仕事である。あの超hyperな活動状況はいったい何だったのだろうかと今でも不思議である。学会では厳しい質問を受けたこともあるが、当時はそれが100%原動力になった。Immunityには一度おとされたが、追加実験を行ってその後はすんなりととってもらった。競合している相手がいることをKシンポジウムで知っていたが、先着できたことは幸いだった。その時に競合したAさんとは2016年にはじめてベルリンの記憶T細胞関係のカンファレンスで会った。
メールの連絡だけでお会いすることができなかったH先生にお世話になったことは記しておかなくてはならない。2002年のGカンファレンスで知り合ったH先生のお弟子さんのC先生にはこの仕事から共同研究を行うことになった。H先生に関する貴重な本をC先生から送っていただいて、今でもぱらぱら読み返すことがあり、つい最近も手にとった。ちなみに、その時のGカンファレンスは、米国北東にある高校のdormitoryが宿泊施設で、どういうわけか多くの日本人の方が参加しており、たくさんの先生と知り合うことができた。見ず知らずのY君と同部屋での宿泊でみんな共通のシャワー室ではあったが、食事だけは豪華であったことはよい思い出である。ただそれ以降Gカンファレンスには出席したことはない。
Yasutomo K, Doyle C, Miele L, Fuchs C, Germain RN.
The duration of antigen receptor signalling determines CD4+ versus CD8+ T-cell lineage fate.
Nature.404:506-10 (2000)
ラボを立ち上げる前の仕事ではあるが、NIHのRon Germain博士のラボに留学したときに行った集大成の仕事である。その様子は、『炎症と免疫』23-4(2015年7月号・6月20日発行)の「ティ―ルーム」というエッセイ欄に書いたので詳細は省略する。いずれにしても、留学してから最初の一年間は培養系の立ち上げだけにおわり、それも試行錯誤の連続であった。実験が成功し始めてからはすぐに結果はではじめて、論文も直ぐに採択された。後から査読者の一人から、最近ではもっとも優れた論文であったと言ってくれたと、聞いたことは忘れない。また、この論文がきっかけで、いくつかの学会で発表する機会ももらった。帰国するのかどうするのかということも考えた。T細胞分化という分野で、これから進んでいこうとは思わない、というぐらいこの分野での仕事を堪能した、3年間の留学の集大成であった。NIHには優れた研究者がおよび若手の研究者が集まってきていた。つい最近もGermainシンポジウムが開催されるということの連絡をうけたが、回りも含めると蒼々たる同僚がいたのだと思う。実験機器は共用機器で日本と変わることはなかった、確かに通常の消耗品という点では自分の所属したラボとは比べものにならないくらいの贅沢さはあったがそれは特別ではないように思えた。情報、それも確かに日本とは違うと思ったが、決定的ではなかった。違いは、歴史とヒトである。ただ、それは日本でも異なる視点から変えることができるのでは、と当時帰国するときに考えていたことを2018年現在、書きながら思い返している。